[信じること]怒り ネタバレ 感想[疑うこと]

怒り

あらすじ

吉田修一の原作を映画化した「悪人」で国内外で高い評価を得た李相日監督が、再び吉田原作の小説を映画化した群像ミステリードラマ。名実ともに日本を代表する名優・渡辺謙を主演に、森山未來、松山ケンイチ、広瀬すず、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡と日本映画界トップクラスの俳優たちが共演。犯人未逮捕の殺人事件から1年後、千葉、東京、沖縄という3つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れたことから巻き起こるドラマを描いた。東京・八王子で起こった残忍な殺人事件。犯人は現場に「怒」という血文字を残し、顔を整形してどこかへ逃亡した。それから1年後、千葉の漁港で暮らす洋平と娘の愛子の前に田代という青年が現れ、東京で大手企業に勤める優馬は街で直人という青年と知り合い、親の事情で沖縄に転校してきた女子高生・泉は、無人島で田中という男と遭遇するが……。(映画.comより)

予告

 

60点

高級食材の無駄使い

のりたまが観たがっていた映画で、個人的にも予告に惹かれたので観てみました。

ちなみにのりたまは綾野剛と妻夫木の話題シーン目当てらしいとのこと(元腐女子)

僕は前知識無しで観たのでどんな映画化な~とワクワクしながら観れたのですが、結論から言うとすっごいモヤモヤした映画でしたね~。

完結に感想を言えば、役者の演技は文句なしにいいのだけれども、それ以外がてんでダメ

演技力抜群の俳優達を全く活かせてなく、高級食材で毒にも薬にもならない料理になっちまったって感じです。

なので今回は愚痴ばかりの感想になるので、この映画を好きな人はこの記事は読まない方がいいかもしれませぬ。

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ザックリとストーリー紹介

・八王子の閑静な住宅街にて殺人事件が発生、犯人の山神は顔を整形して逃亡していた。

・その一年後にオムニバス形式で千葉、沖縄、新宿で、身元不明の怪しい男三人の話が始まる。

・それぞれがその土地で現地の人と信頼関係を気づいたり、恋人同士になったりと絆を深め合う。

・だが八王子の殺人事件の犯人の特徴がそれぞれの三人の特徴に当てはまる上にニュースで報道されてしまう。

・千葉と新宿の田代と大西はそのニュースを観たパートナーに疑われ、消息を断つが実はこの二人は山神ではなかった。

・山神は沖縄に住んでいた田中という男で、田中は一見まともな人間に見えるが実は精神疾患を抱えた異常者だった。

・田中は現地で仲良くなったJKの泉が、実は米軍に乱暴されている所をあざ笑っていたと泉のほの字の辰也に話す。

・逆上した辰也に腹部を刺されて田中(山神)は絶命。

・一方犯人の疑惑がはれた田代は恋人の愛子とよりを戻しており、大西は持病によって人知れず死んでいた。

・泉は田中の本性と辰也の自分への想いなどを田中のアジトで発見し海に走り出して絶叫、田代とよりを戻した愛子の嬉しそうな笑顔がアップになりEND

サスペンス要素が弱く、メッセージ性も希薄

(山神がただの厨二病としか思えん)

冒頭~中盤一歩手前くらいまではそれなりに良かったです、誰もが怪しくても誰が犯人でもおかしくないと言った感じで進むのはね。

でも終盤が雑すぎるし、そもそも身も蓋もない事を言えばこの映画にサスペンス要素いる?って思うんですよ。

三者のストーリーはどれもが興味深くて惹かれるものがあるしふか~いテーマを持ってるのもなんとな~く感じます。

だけどもそれが何のトリックもなければメッセージ性もない、平凡すぎるくらい平凡なサスペンス要素で台無しになってるんですよね。

サスペンス映画って最後まで的(答え)を絞らせなかったり、クライム感を楽しむものじゃないですか。

なのにそれが一切ないですからね「別に誰が犯人でもええわ」って視聴者に思わせちゃう時点でもうサスペンスしてないんです。

そんで仮にね、「サスペンス要素はいらん、これは深いメッセージを伝えるためのサスペンス要素なのじゃ!」と言いたいのかもしれません。

でもね、そうだとしたら今度はじゃあ、その肝心のメッセージ性とやら何なのよ?って思うんです。

それは別に犯罪の内容が平凡だからそういった問題ではなく、山神の描き不足なんです。

優しくされると「見下された気になって衝動的な殺人をおかす」なんてプロットのキャラクターって別に珍しくもなければなんともないじゃないですか。

そんなのフツーの人だって一度や二度は脳内でやってることだし、現実にやってしまう人間がいることに何ら驚きを感じません。

でも別に珍しければいいってもんでもなく、そんなありきたりな理由で人を手にかけるとしてもそこにドラマがあればそれはメッセージになるし見る人の心を揺り動かせるんです。

山神はそこんところが弱すぎるんですよね~。

田中(山神)が沖縄の平和で楽しそうな奴らを観てたら、自分が惨めになってイライラしちゃったのはま~なんとなくわかりました。

でもそれを客の荷物ぶん投げたり、ブチ切れて厨房をメチャクチャにするという安易な映像では、観る側に伝わるメッセージは少なすぎるんです。

映画ってのは少なからず日常的に観れない物を観ようとするわけですよ。

それは絶対に日常では観れないものだったり、日常に潜む非日常だったりするわけで、上記に上げたような映像はもはや見飽きてるんですよね。

見飽きたものに人の心は動かせないのです(少なくとも僕は何も感じなかった)

ステレオタイプの米軍の描き方が勿体無い

(かんなちゃんと双璧を為す美女の体当たり演技が米軍の描写不足で台無し)

この映画の見所というか広瀬すずの頑張りどころの1つになっているのが、ここの米軍によって乱暴されてしまうシーンです。

沖縄にとっての米軍という存在や女性にとっての最大の恐怖など非常に重いテーマじゃないですか。

にも関わらず体をはった広瀬すずにたいして、こんな20年前のピンクドラマにすら劣るレベルのステレオタイプのレイパーじゃ何にも盛り上がりません。

と言うかむしろ白けますね。

沖縄にとっての米軍の恐さ、政治的な問題、女性にとって「そこを歩くことの恐怖」を3分でもいいから盛り込んでおけばもっともっと重苦しくできたんじゃないでしょうか。

それに広瀬すずの体当たり演技とか言うけど、個人的には「これくらいで?」って思っちゃいました。

まあ、別に『アレックス』くらいヤれよとは言いません。

でもキャーキャー叫んでいるだけでは女性の絶望感や力に押さえつけられる悔しさは伝わってはこないんです。

とは言えこれに関しては広瀬すずは悪くはなく、単純に監督や脚本の問題なのかもしれませんが。

辰也の行動が意味不明

辰也が田中に「信じてたのに裏切られた」とか言うのですが、まったくもって意味不明です。

大体裏切るも何も・・・田中は別に悪いことはしてないというか、少なくとも辰也に殺されるほどは悪い事はしていませんよ。

だって泉が襲われている際に傍観者でいたのは沖縄住人と同じだし、なんなら辰也だって同じだったでしょう。

言い方や言葉が汚いだけで「実際には何もしてない」んです。

なのに一体何を裏切られたんですかね?

田中が「実はオレ性格悪いんだわ~」に対して裏切られたと感じたのなら、それってハサミでお腹をブスリとする程のことなんでしょうか。

そりゃ愛する人をバカにされたらムカつくでしょうけど、それが殺人を犯す程の動機にはなりえなくて個人的にはだいぶ白けるシーンでしたね。

役者の演技に助けられているだけの映画

(この二人だけでコッチ系の映画一本イきましょう)

はっきりと言ってしまえばこの映画自体はかなり微妙です。

テーマが怒り、信頼、疑念といった人間の本質を描いてるのにも関わらず、映像でそれを伝えきれていません。

そんでサスペンスとのバランスも全くとれていないです、田中のエピソードなんてザックリ削っても問題なさそうだし。

そしたらもっと残りの二人のエピソードに力を入れられただろうし、テーマももっと絞れて人の闇みたいなもんを深く描けたんじゃないでしょうか。

それでもこの映画がそれなりに面白いと思えたのはやはり役者の頑張りでしょう。

妻夫木と綾野剛の関係性はそれ一本ですでに映画にできそうなくらい魅力的な内容だったし、田代と愛子や親父さんの関係なんかも『BOY A』を観てるようでもっと続きを観たかったですね~。

観たいものは名演ではなく名作

(山本未來もいい役者さんになりましたね)

僕らが求めるものは妻夫木と綾野剛の刺激的な絡みでもなければ、広瀬すずの大胆演技でもありません(もちろん、それのみを求めている人もいるだろうけど)

それは非常にシンプルでたったひとつのもの「面白い映画」なんですよ。

『ダークナイト』のヒース・レジャーがどれだけ名演をした所で、映画そのものがつまらなかったら身もふたもないんです。

映画は脚本、映像、演技力の三拍子が揃って初めて観る人の満足感を満たせるわけで、そのどれかが特出してれば「保険」になるってだけなんですよ。

だから特出して演技力のパロメーターが優れていたこの映画は勿体無いんですよね~、あとコレに脚本と映像美が加わればスッゲー面白い映画だったんだろうな~と思うと。

まとめ

あまりに惜しい!と思える部分が多すぎて愚痴だけの感想になってしまいました。

でもそれだけ惹かれる部分も多かったって事なんです。

これだけの役者を集めて映画を作るのって大変でしょうからね。

あ、ちなみにのりたまも似たような感想でしたけれど「とりま妻夫木と綾野剛のアレが観れたんで満足っす」と仰ってました。

 

沖縄編が好きな人にオススメの作品。

また変態監督ギャスパー・ノエの入門編にピッタリの映画です。

千葉編が好きな人にオススメな作品。

個人的にアンドリュー・ガーフィールドで一番好き。

小説はもっと個々の描写がこまいかいんですかね?

評価もいいんでそのうち読んでみようかしら。

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6 Responses to “[信じること]怒り ネタバレ 感想[疑うこと]”

  1. 中村 より:

    こんばんは中村です。

    つまらん映画でしたよね。
    公開当時レビューサイトを観た時には割と高評価が多かったので自分がおかしいのかと思いましたが同じように感じる人が居て良かったです。
    監督の前の作品である悪人があまり面白くなかったので迷っていたものの、このようなジャンルは好きなので誘惑に負けて観に行ったのですが行かない方が良かったです。
    印象としては3つの映画を足して単純に3で割ったような感じでした。
    上で仰っていることと殆ど一緒ですね。ただまあ愛子&田代の部分に関しては割りかし綺麗に纏めてはいたのかなと思います。ゲイカップルの部分はあまり印象に残らず沖縄に至ってはこれいらないんじゃとまで思ってしまいましたね。
    小説をそのまま映画にするよりもこの中のどれかのテーマを基に一本の映画に再構成した方がまだ良かったんじゃないかと。
    ホントに、何も分からず何も残らずでした。
    後、映像に関しては、愛子が家の前の階段を降りていくシーン(違ったかも)など、偶に絵になる綺麗な映像が出てきていたので悪いという印象は無かったです。とは言え肝心の部分がもうボロボロなのでだからなんだレベルの話ですが。

    この監督は役者に対して非常に厳しく指導を入れる、所謂スパルタ系の監督と聞いたことがありますが、一番教育すべきは自分だったという所ですかね。なんかこの人先日名前を出した河瀬直美と同じ匂いがします。

    この年の日本映画は、私が観た中ではヒメアノ〜ルが一番良かったです。

    • ゆでたま より:

      こんばんは、中村さん。

      あら、奇遇ですね、僕も高評価多数で自分がおかしいのかな~なんて思ったんですよ。
      あ~悪人は僕も観ました、僕も正直微妙でした。山田孝之が好きなのとピエール瀧のキレ具合で最後までは観れたけどそれ以外褒める所ないですね。
      追記※『悪人』と『凶悪』を混同してました・・・『悪人』は観たことないです、すみませんでした。

      スパルタのくだり、実は僕も思ってました(^^;)
      ただ有名人?を名指しで批判って何か苦手でヘタレて記事には書かなかったんですよね。
      うーむ、次からは思ったことをしっかりとかける辛口なゆでたまも目指していこうかしら。

      ヒメアノ~ル評判いいですよね~。
      僕もチェックしてたんですが、最近どうにも自分の中で観たい観たい詐欺が横行してまだ観てないんですよね。

  2. より:

    ゆでたまさん、こんにちは

    この映画観てないんですが、原作はうーん…という感じでしたね。作者が実際のあの事件を元ネタに考えたらしく、だからイマイチ作者の言いたいテーマがまとまってない散漫な印象でした。
    広瀬すずちゃんは、「この映画に出演出来たことが宝物」と言ってましたけどね…。ゆでたまさんのご指摘のように、邦画は「で?結局この映画は何が言いたいの?」で終わるものが多いですよね。映画ってエンタメとして面白いだけでなく、ラストに「ああ、この映画はこういう意味だったのか…」ってじんわりくるものじゃないと、2時間ぶっ通しで観るのが徒労になりますから。邦画はCMみたいに画面はやたら印象的なシーンを入れようとしてる割に、思想的なバックボーンが弱いので、観終わって余韻が残らないんですよね…。私は書いてる側なので脚本がめんどいのは分かるんですが(笑)、とりあえず感情を表すのに物を蹴ったり叩いたり、怒鳴ったり号泣したりは止めて、ちゃんとエピソードを丁寧に作れよ!と思います。
    いやー辛口いいじゃないですか。ツイートでもゆでたまさんの記事は「辛口だけど正論」と書いてる方がいましたよ。これからもジャンジャンお願いします。業界の人だと同業者の批判はしにくいと思うんですよね~。だから普通の人がレビューで発信していくしか、邦画を良くする道は無いのではないでしょうか。

    • ゆでたま より:

      雪さん、こんにちは。

      原作の方も微妙なんですか~、うーん、原作はもっと書き込んでいるんだろうと思ってただけにちょいとガッカリですね。
      まあ、広瀬すずちゃんからすれば大御所俳優や実力派俳優と同じ舞台にたてたことは役者としての誇りでしょうからね~。
      もちろん、多少のリップサービス的なもんもあるんかもしれませんが。
      僕は邦画を観る頻度が少ないので、あまり邦画について語れませんが・・・うーん、言われてみれば最近は心に残る邦画ってパッと出てこないです(ーー;)
      そう、まさにそれなんです。
      僕らが時間という対価(映画館ならお金もそこそこかかる)を払って、映画に求めるのはエンドロール後に「そうか、そうだったのか!」と言った驚嘆や感動なんです。
      それが綺麗ってだけの映像やチープな表現で誤魔化されるとうぬぬ・・・(ーー♯)ってなるのです。

      いや~、そう言われると凄く背中を押された気がします!
      せっかく自由にブログで好きなことを言えるんですもんね、だったら自分の思ったことをもっと言っていこうと思います。
      まあ、批判するために映画を観たり、ただの誹謗中傷にはならないようにはしたいですけどね(^^;)

  3. より:

    ゆでたまさん、こんにちは

    http://news.livedoor.com/article/detail/13498826/
    デーブ・スペクターさんとか外国人の方しか、公に批判
    出来ないんでしょうね…。内部からは出てこない、これが
    日本の業界の問題ですね。
    いえいえ、ブログのタイトル通り、ゆでたまさんの評は
    映画愛ゆえですから、大丈夫だと思いますよ!

    • ゆでたま より:

      雪さん、こんばんは!

      こりゃまたバッサリ切り捨ててますな~(^^;)
      確かデーブ・スペクターさんって前にも似たような邦画批判してましたよね。
      こういった意見ってみんな心のどっかではあると思うけれど、言えない言ってはいけない雰囲気ありますもんね。
      ましてや縦社会の芸能界となるともう黙殺でしょうなあ(ーー;)
      ありがとうございます!お陰で映画の感想を書くモチベーションが維持できるってものです!!

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